稲垣有里染織展in「フラスコ」

kazedayori2008-12-23


昨年に続いて、神楽坂で行なわれた稲垣有里さんの個展。何度訪ねても、その色と織の奥の深さに感嘆する。今回、有里さんが追求したのは貝の内臓で染める「貝紫」という紫色。
『色の名前で読み解く日本史』(中江克己著)によれば、日本において紫は最高級の色とされ、紫根で染めたとされる。貝で染める紫は「シェルパープル」と呼ばれ、小粒の貝から紫色の分泌液を採取して染めたとある。


今回、有里さんが染めたのは、別な種類の貝であるように思える。食用にもなるが、市場に出回るほどのものではなく、地元の漁師さんの食卓にのる程度だそうだ。
「食べてみたけれど、ふつうの貝の味だった。貝が嫌いなひとはだめかもしれないけれど」
その貝の内臓を取り出し、煮出して糸を染める。
「最初は濃い色で染まるんだけれど、回数を使っているうちに、色が薄くなっていくの。まるで、貝の命を糸に移しとっていくみたいに」
生かされているという真摯な気持ちになったと、有里さんはおっしゃった。


今回、織物体験を希望していたので、オレンジ色の糸を使って、マフラーを織る。5センチほど練習して、本番。リズムよくとはいかなかったが、思ったより早くできあがった。編物よりいい。
「わたしも編物は苦手だったのよ」
有里さんが笑う。学生時代のお話や、染織の傍ら新体操の講師もしているというお話も聞く。
出来上がったマフラーのフリンジを仕上げ、有里さんの作品の丑を求めて、フラスコを後にする。