稲垣有里染織展『ユトリ展』

東京・神楽坂の実験室(ギャラリー)「フラスコ」で開催された作品展のひとつ。

クリスマスの日の昼。神楽坂のとおりは、それほどクリスマスらしくもなく、かといって人通りは少なからず。和の雰囲気が漂う中を歩く。ときおり、クリスマスケーキを売る声が、通りを右往左往している。

路地を入ったところに「フラスコ」はあった。白い壁が、漆喰の倉を連想させる。大きなガラスの引き戸を開けて入ると、すでに有里さんの世界になる。左にマフラー、右手に結十布やトートバッグ。奥には、手織り機と、着物が展示されていた。事前に申し込んでおけば、体験教室として、マフラーの自作も可能。今年は申し込まなかったが、来年には挑戦してみようか。

「今年は、ラメがわたしの中でブームなんですよ」
確かに、今年のマフラーは、ほとんどにラメが入っている。シャンパンカラーですねというと、そう、と笑った。

有里さんはご自身で織った着物を召している。牡丹色を基本とした、若々しい紬。幾色もの糸が、流れるような縦じまを為している。きちんと着物を着こなした有里さんに、とてもお似合いだ。有里さんはとても小柄な方ではあるが、芯の強さは作品に表れている。

有里さんの初期の作品は、少女のように柔らかいイメージのものが多かったのだが、今回は、少しかっちりした大人の雰囲気をもっている。

有里さんの考案した『結十布』は、風呂敷の変化形。
「今は、ほとんどの人が、めんどうだからという理由で、風呂敷を使わないから…でも、この小さいものはわりと、売れるんですよ」
楽しい和のの色使いは、持っているだけでもこころが和む。

お客さんが入れ替わり、立ち代わり入っては、作品をながめ手にとってみる。有里さんと風呂敷の話をしていたところに、風呂敷を手提げバックのようにした若い女性が入ってきた。おお、めずらしい。
「どうやって、包んであるんですか」
失礼ながら、包み方を教えてもらう。中身は、その女性が創作したと言う焼き物。これから納品にいくところなのだという。

神楽坂は、古い町並みのなかに、若々しさをも備えている町なんだろうか。

長女に選んでもらったアイボリーの帽子に合うマフラーを買い、ギャラリーを出た。日はまだ、頭上にあったが、空気はもうすぐ日暮れになることを教えてくれていた。冬の夕暮れは駆け足だ。神社の前をとおり、駅へ向かう。手にした神楽坂のPR紙で、神社が「赤城神社」だというのを知る。

来年は、着物を着て、この街を歩いてみたいと思った。