着付教室のセミナーに参加する.

講師は,伝統工芸師の和田富士夫氏.西陣織物の土台を支える職人のお一人.

帯の歴史と,技術と,現代のあり方を,素敵なジョークを交えてお話くださる.ひとつの帯が作り出されるのに,多くの人の手,技術が関わっているのだということに,改めて感慨を受ける.糸の作り手.養蚕から,紡ぎ,拠り,それから綜絖という技術.講師の和田先生は,その綜絖の職人である.複雑な文様を糸の織り方で表現するには,縦糸を順番に間違いなく並べて組み立てなければならない.最低でも2000本,複雑なものでは5000本近くの縦糸を,ご夫婦で組み上げて行く.単に並べていくという作業ではない.1本1本,丁寧に織物の基礎をしつらえていくという作業.想像しただけでも気が遠くなる作業だ.

職人のイメージは,無口で堅物という先入観を,見事に覆してくれる和田先生のお話は,感嘆符とともに心に染みる.
仕上がった帯は,織り上げた職人さんへの賞賛がありがちだが
「わたしの技術があるから,これができたんですよ.はい,自慢してるんです」
と,あかるく自負されている和田先生が,まぶしく感じられた時間.

京都の老舗の帯をいろいろ拝見し,いろいろ技術を学んだ.多くの知識がいっぺんに入り込んできて,すべてを覚えるにはまだ時間がかかりそうだが,日本の文化というものを再認識した.


それぞれの国の文化には,それぞれの職人がいる.伝統とは,時代とともに変化しつつも,1本の糸のように受け継がれていくのであろう.