絵描きの人生

ダンナの83歳の叔父は、画家である。農家の長男でありながら、東京へ出て行き、郵政省へ勤めながら、絵描きとして2足のわらじを履いてきた。

「バブルの頃はね、襖2枚ぐらいの絵が、けっこう売れたんだよね」
そんなの買う人って、どういう人なんですか。
「会社の社長さんとかが、社長室や会社のロビーに飾るんだってさ」
叔父の絵は、裸婦…芸術だよね(^^;。

「小説の挿絵も描いたことあるけれど、ぼくらのような絵描きに来る注文は、名前の売れてない小説家の作品ばっかりでね。それでも、原稿料が入ってくるから、これで食っていこうと思ったんだけれどね。これが、辛い。自分の好きなように描けないからね。何作か描いて、やめたよ」
叔父の絵柄からすると、官能小説だったのかな?

「こうやって、歳をとるとね、あんなに好きだった絵も、描きたくなくなるね。不思議なもんだけれどね。これは、歳をとってから、わかったことだね」

夜、娘たちと一緒にテレビを見ながら、爆笑問題がお気に入りだとか、やなせたかしさんに会ったことがあるだとか話す。「アニメのベスト100」とかいう番組を見ていたんだが、叔父には孫がいないから、アニメ番組ははじめてかな。それでも、アンパンマンドラえもんは知っていた。

「若い頃は、暇になったら小説をたくさん読んでやろうと思ったんだけれどね、今は読む気がしないね。若い作家の小説は、みんな嘘くさくてね」
はは、叔父さんからみれば、確かにそうかも。じゃ、叔父さんが小説を書けばいいじゃないですか。
「いやあ、もう創作する意欲がわかないんだよね」

そういう叔父さん、いま絵画教室で絵を教えている。義父の兄になるのだが、義父よりずっと気が若い。でも、今度会うときは、お葬式になってしまうのかな?